税務調査の結果、税務署から更正処分を受けることがあります。
このような場合、納税者としては不満があることもあるでしょう。
そんなときには一定の救済方法が用意されています。
それが異議申し立てや審査請求、そして税務訴訟となります。
原処分庁である税務署や国税不服審判所に対して、処分は間違っているから見直してくださいというわけですが、それでも納得のいく見直しがなされない場合には、裁判所に提訴することになります。
これが税務訴訟です。
税務訴訟となると主役になる代理人は弁護士となり、税理士はその補助をする役目を負うことになります。
弁護士が代理人となり、国税庁を相手取って裁判を起こすわけです。
被告が国となり、被告側の代理人が訟務検事という検事さんが就任することになります。
さて、今回読んだこの本は、税務訴訟を担当し、敗訴した税理士がその反省や経験から、税務訴訟制度の問題点を提起し、さらに税理士会に向けて改革を提案するという形になっています。
なかなか税理士の立場から、税務訴訟の体験談や失敗談を紹介するという企画はなく、まして税理士会にこのような提案をすることもないと思うので、とても参考になると思います。
ただ、やはりこの事例では最初の段階から明らかに間違った戦略によって負けるべくして負けたともいえます。
税務訴訟という特殊な裁判に、開業したての弁護士を代理人としたこと、東京ではなく広島地裁に提訴したことなど、最初からきちんと準備ができていなかったのではないかと思います。
知り合いの弁護士さんに税務に関する訴訟の代理人になれるかどうか聞いたことがありますが、やはり税務に詳しい弁護士ではないからできないし、仲間の弁護士さんにも対応できそうな方はいないようでした。
反対に訴訟に詳しい税理士というのもほとんどいないわけですから、まず勝てる可能性が高い弁護士さんを探すのに苦労しそうです。
そして、訴訟を起こすにも今では行政事件訴訟法の改正があって、原処分庁の所轄の地裁だけでなく、東京地裁を含めて最大3か所から選択が可能となります。
したがって勝てる確率が高い裁判所をその中から選択することも可能となっています。
つまり、最初の段階で税務訴訟に詳しい弁護士さんに依頼して、きちんとした訴訟戦略を検討していただくところから始めるべきだったと思います。
この本にもあるように、裁判官は税法についてはあまり知識がない可能性もあります。
そして、訟務検事や原告代理人の弁護士も税法の知識が足りない可能性もあるし、国税庁の訟務官も完璧な税務判断ができるとは限らないと言えます。
税務の判断は、基本的には正解は一つしかないと思います。
ただ、過去の事実認定については神のみぞ知るということもあります。
それは、刑事裁判だってそうでしょう、真実は一つでも間違った判決がでることもあります。
本当は、真実の犯人なのに証拠が足りなくて無罪になることもあるでしょう。
逆に、本当は犯人ではないのに冤罪で死刑になる人もいる。
つまり、真実は一つでも裁判の結果は必ずしも真実の通りにはならない。
それが訴訟であり、裁判なのだということがこの本での気づきです。